労働・社会保険手続き
社員が勤務中に倒れた場合、労災は適用されるか? [ 2014.03.06 ]
仕事中に脳疾患・心臓疾患などで倒れてしまった場合、会社としては、まず労働者の安全確保や救急の手配をしなければなりませんが、その病気と仕事に因果関係が認められている場合は、当該病気について労災が適用となりえます。
原則として、突然倒れてしまうような脳梗塞や心筋梗塞などの、長年の生活習慣や食生活が大きく影響する病気については、その生活習慣や既往症、ならびに直前の勤務状態等を総合的に判断することになります。
会社として注意しなければならないのは、やはり「病気と「過労」との間に相当の因果関係が認められる場合」です。長時間の残業や休日出勤が続いた結果倒れてしまった場合、労災認定をされ、さらに会社の損害賠償責任が生じる可能性もあります。
脳疾患・心臓疾患に対する労災認定基準は次の通りです。
発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的・場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇してこと。発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと。発症前の長時間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。
なかでも最も明確な判断指標が労働時間(残業時間)です。
現状、月に45時間以上の残業が発生すると、脳疾患や心臓疾患発症の「関連性が強まる」とされています。
残業時間について、2~6か月平均で80時間以上か、1か月に100時間以上となると「関連性が強い」とみなされます。
会社には「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という安全配慮義務があり、損害賠償責任が発生しうるのはこの安全配慮義務違反が認められる場合です。
安全配慮義務違反を問われないよう、会社としては適切に労働時間を把握管理する必要があることを心がけましょう。
妊娠・出産・育児をする社員への対応における注意点 [ 2014.01.28 ]
法律では、「妊娠や出産を理由とする解雇」を禁止しています。また、妊娠や出産を理由として女性労働者を不利益に扱うことも禁止されています。
解雇が禁止されているのは以下の期間・理由です。
・産前産後の休業中及びその後30日間の解雇
・女性労働者の婚姻、妊娠、出産を理由とする解雇
・妊娠中及び産後1年を経過しない女性労働者の解雇
・育児休業の申し出、取得を理由とする解雇
近年は、この「妊産婦への不利益取り扱い禁止」が社員側にも広く認知されてきていますので、乱暴な解雇や不当待遇はすぐトラブルになってしまいます。
妊娠や出産を理由とする解雇は禁止されていますが、産前産後休業中の給与は支払わなくて問題ありません。社会保険に加入していれば、産前産後休業時には給与の3分の2相当額が出産手当金として支給されます。この期間、会社の負担は社会保険料のみです。
また、産前産後休業後の育児休業も無給で問題ありません。雇用保険に加入していれば、原則子供が1歳になるまで育児休業給付金が受給出来ます。さらに、産前産後休業とは違い、育児休業時は社会保険料が本人、会社ともに免除となります。そのため、会社としては実質的な負担はありません。
問題はむしろ休んでいる間の「代替要員の確保」や「復帰」について起こりがちです。どのくらいの期間で復帰することを希望しているか、復帰後の労働時間はどうするかなど、子育てに関する予定を事前によくヒアリングしておきましょう。無理やり退職に追い込むことは、トラブルの原因になりますので、話し合いはあくまで慎重に行ってください。
通勤手当の申請経路とは違う経路で交通事故にあった場合 [ 2014.01.22 ]
通勤手当の支給額決定のため、通勤の経路を報告させていることがあります。
その報告を受けた経路と違うルートで通勤を行っている最中に交通事故などにあってしまった場合は、労災保険(通勤災害)の適用がされるかというと、それが「合理的な経路及び方法」であるなら適用されます。
逆に言うと、特段に合理的な理由もなく大きく遠回りする場合、無免許運転をする場合などは「合理的な経路及び方法」と認められず、通勤災害の適用範囲から外れてしまうことがあります。
通勤災害の適用の如何は最終的には労働基準監督署の判断によるので、事実のまま申請をしましょう。
一方で、本件は「虚偽の通勤ルート報告をしていた」ことについて社内処分の観点で検討をしなければなりません。
多いケースでは、会社には電車での通勤申請をし、定期代を請求しているが、実際は自転車やバイクで通勤することがあげられます。このようなことを通勤手当の水増し請求、架空請求ともいいます。
これらの通勤手当の水増し、架空請求は、虚偽の申請として服務規定違反といえます。
会社としては、そのような行為が発見された場合は、処分が下るような服務事項・懲戒処分項目を規定しておくことが必要になります。
またこのような通勤ルート虚偽申告などの服務規律違反を未然に予防するために
・通勤手当の支給申請には領収書や定期券の写しを提出させるようにしましょう。
・車やバイクでの通勤の場合は、免許証のほか、自賠責保険ならびに任意の自動車損害補償保険の加入証書などの写しを提出させましょう。
まとめると、通勤ルートを正しく申告させる意義とは
① 万が一通勤災害として認定されないことを防ぐため
② 通勤手当の架空申請などの不正を防ぐため
であることに留意してください。
仕事中の交通事故に対する対応方法 [ 2014.01.15 ]
自動車を使用して仕事をしていた過程での事故は、労災保険(業務災害)が適用になりますが、同時に車両にかかっている「自動車保険」も使えるため、本人がどちらの保険から給付を受けるかを「選択」することになります。補償対象が同一であるため、どちらも重複してもらうことはできません。
では、どんなときにどちらの保険を選択するのがよいでしょうか。
1、まずは自動車保険(自賠責保険)から:
交通事故については「自賠責保険優先」という考え方があります。これは行政通達であり、法的な拘束力はないものですが、一般的には当該行政通達に倣って自賠責保険を使うことを第一に考えるケースが多いと言えます。
自賠責保険はすべての車両に加入が義務付けられており、補償内容は以下の通りです。
治療費、文書料、休業損害、慰謝料について、合計120万円まで補償
後遺障害・死亡について 75万円~4000万円まで補償
被災者が無過失かつ治療費や休業補償の合計が120万円以内に収まる比較的軽微な事故では、自動車保険(自賠責保険)の適用を選択することが多いでしょう。
2、労災保険と自動車保険の比較
労災保険を選択する場合、以下のようなメリットがあります。
①被災者に過失があっても負担が発生しない
交通事故では過失割合が問題となりますが、労災保険では過失割合に関係なく治療費が全額保障され、休業補償についても過失相殺されません。過失割合について当事者間でトラブルがある場合、労災申請をしたほうが迅速に給付がなされます。
②治療費の限度金額がない
自賠責保険と異なり、労災保険には治療費の限度額がない点で有利です。
②公的保険のため治療費自体が安くなる
自動車保険を利用すると病院では自由診察の扱いとなります。公的保険である労災保険の診療報酬と比べて、自由診療部分は文字通り自由に治療費が設定できるため高くなります。
つまり、同じ治療を受けているにも関わらず治療費自体が2倍にも跳ね上がることもあります。
過失割合でトラブルになっている場合や、相手方が自賠責保険のみにしか加入していない場合などは、労災保険のメリットを選択したほうがよいでしょう。
雇用保険の手続きを忘れていたときの対処法 [ 2013.12.27 ]
雇用保険の資格取得(入社手続き)を忘れていた場合、過去に遡って手続きを行うことはできますが、原則として2年間しか遡ることができません。
2年以上前から入社をしていた場合、本人の雇用保険加入期間が少なくなり、本人が退職した時に失業給付の額に影響が出る可能性があります。(失業給付は、加入期間によって支給額が変わります。)
ただし、例外として2年以上遡って手続きすることも可能です。
この場合は、当該2年以上前の期間について雇用保険料を天引きしていた事実が必要となります。つまり、過去の賃金台帳を提出して「前から雇用保険に加入しているという前提で保険料天引きをしていたが、たまたま手続きを忘れていただけだ」という状態でなければ2年以上の遡り手続きはできません。
加入手続きが済んでいるかどうかを確認するには:
管轄のハローワークで「事業所被保険者台帳提供依頼書」を届け出ることで、現在の被保険者一覧表が観覧できます。
現在の被保険者一覧表で雇用保険の加入漏れかどうか確認できます。
加入漏れは会社への信頼感を損なうことにもなりかねませんし、社員にとって失業保険給付に関わる一大事となりますので注意してください。
できれば2年に1回は加入漏れがないかを確認するような体制を整えておくとよいでしょう。
派遣社員が仕事中にケガをした場合の派遣先会社の対処法 [ 2013.11.19 ]
派遣社員の労災は、「派遣元会社」が適用されます。
派遣社員が仕事中にケガをしたり、仕事が原因で病気になってしまったりした場合には、派遣会社の労災保険を使うことになるので、労災の給付関係申請は派遣元会社に任せてください。
ただし、実際に派遣社員が安全・健康に働くことができるように配慮するのは、現場を監督している「派遣先会社」の責任であることに注意が必要です。
派遣先会社の責任としては以下のようなことがあります。
1、労働基準監督署へ労災の報告義務
派遣社員が労災に遭った際は、正規の従業員と同じように、労働基準監督署へ労災が起きた旨を報告しなくてはいけません。とくに4日以上の休業を伴う労災の場合は、死傷病報告書という様式の届け出を速やかに行ってください。
2、労働基準監督署の立ち入り調査対応義務
労災が発生すると、労働基準監督署が状況確認のために会社へ立ち入り調査を行うことがあります。これは、安全配慮義務違反がないかを調査される趣旨のもので、とくに大きな労災事故が発生した場合に行われます。
労災の報告義務に違反すると「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」ということもあります。派遣受け入れ会社としては、悪気なく労災報告を忘れてしまうこともあるようです。現場での安全配慮義務、ならびに労災の報告義務は派遣先会社にあることを十分認識してください。
産前産後休業の解説 [ 2013.11.05 ]
(産前産後の休業について)
産前産後の労働は、労働基準法で制限されています。
出産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)は出産予定の女性社員が休業を請求してきた場合、就業させることは出来ません。しかし、女性が希望した場合には働かせることが出来ます。
出産後8週間、原則は社員からの請求の有無にかかわらず、働かせてはいけません。
しかし、出産後7~8週間に関しては、女性本人が請求した場合であって、医師が支障がないと認めた業務については、働かせることが出来ます。
これらの規定は、主に母体保護の観点から定められています。
(休業中の賃金について)
産前産後の休業中に関しても「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されるため、給与の支払い義務はありません。しかし、強制的な休業にも関わらず、無給というのでは安心して出産することが出来ません。
(健康保険からの給付について)
そのために、被保険者や家族の生活を保障し、安心して出産前後の休養ができるようにするために、健康保険から出産手当金が支給されます。出産手当金は、1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給されます。
※標準報酬日額=標準報酬月額÷30日
また、出産・育児には多額の費用がかかるため、出産費用を行政などが負担してくれる制度があります。これを、出産一時金と言います。1児につき42万円が支給され、多胎児を出産された場合には、出産された胎児数分だけ支給されます。双生児の場合は、2人分が支給されることになります。
出産一時金は、病院窓口で支払うときに行政などの負担部分を差し引いて支払うのが原則ですが、病院によってはいったん従業員が全額負担し、後から負担分を受け取る場合もあります。出産予定の際には、病院がどちらの制度をとっているか、確認してもらうようにしましょう。
経営者の労災事故への備えについて [ 2013.09.04 ]
仕事中にケガなどをして労災保険が適用される場合には、本人が窓口で診察代を支払うことはありません。本人の自己負担額は0円になります。
しかし、労災であったとしても、相手のある交通事故の場合には、相手方の自賠責保険等から優先して請求することとなります。また、治療に必要のない差額ベット代のかかる部屋に入院した場合には、その部分は自己負担となります。
労災保険の対象は従業員ですので、経営者や取締役は対象となりません。つまり、社長が仕事中にケガをした場合は、労災保険は使えないことになります。また、仕事中のケガですので、健康保険も使うことが出来ません。全額自己負担をしなければならないことになってしまいます。
しかし、中小企業では社長もプレイヤーとして現場で働いていることが多いため、仕事中のケガや病気について全額自己負担では社長がかわいそうだということで、下記2つの条件に当てはまる場合は、仕事中のケガであっても健康保険を使うことが出来ます。
① 健康保険の被保険者数が5人未満の事業所に所属している
② 通常の従業員と変わらない仕事をしている
なお、この場合には、「傷病手当金」の請求は出来ないので、注意が必要です。傷病手当金とは、健康保険から支給される休業中の所得補償です。連続3日以上休業した場合、4日目から標準報酬日額の3分の2が支給されます。
因みに、通常労災保険の対象とならない人が労災保険に加入できる、「特別加入」という制度があります。特別加入することが出来るのは、以下の方です。
前提:
労働保険事務組合に労働保険事務を委託している会社であること
対象者:
① 中小事業主とその従事者(常時300人以下の労働者を使用)
② 一人親方その他の自営業者とその事業に従事する者(従業員を雇わずに仕事をしている)
③ 特定作業従事者
④ 海外派遣者
仕事中のケガや病気に見舞われてしまう可能性の高い方は、労働保険事務組合への委託をし、特別加入を検討するのもよいでしょう。
仕事中にケガをした場合の対応について [ 2013.07.22 ]
仕事中にケガをした場合は労災となります。
従業員が仕事中にケガをしたり、仕事が原因で病気になった場合、これは「業務上」の災害となります。どのような場合に「業務中」となるのでしょうか。
業務上の判断基準:
「業務上」かどうかは次の2つで判断します。
1、 業務遂行性
仕事をしている最中であったか
2、 業務起因性
ケガや病気の原因が仕事にあるか
補償内容:
労災には例えば下記のような補償があります。
・労災で病院にかかったときの診察料
・その間会社を休んだ際の休業補償
・障害を負ってしまった場合や死亡してしまった場合の金銭的補償
労災はアルバイトも対象となるか:
労災の対象となる従業員はパートタイマーやアルバイト、月1回しか勤務しないような従業員までも含まれます。
判断が難しい「病気」の労災認定:
ケガであれば、すぐに労災かそうでないか判断がつきやすいですが、問題は病気です。
たとえば、勤務中に脳梗塞で倒れてしまったとき、その原因が仕事なのかすぐにはわかりません。近年注目されているうつ病などの精神疾患もその判断が難しいでしょう。
病気による労災認定については、長時間残業やパワハラ・セクハラ等ともつながる問題であるため、慎重な対応が求められます。
労災をかけていれば安心とは限らない:
会社には労災加入義務だけでなく、労働者の安全に気を付ける義務(=安全配慮義務)があります。
この意味で、労災が起きてしまった場合、「労災=会社が安全に気を付けなかった責任がある」という図式が成り立ち、特に障害や死亡にまで至ってしまった場合、安全配慮義務違反という理由から、本人やその家族から損害賠償請求をされる可能性があります。この場合損害賠償額は近年特に高額化する傾向にあるため、安全配慮にも十分に気を付けたいところです。また、労災上乗せ補償などの保険加入も検討してみてください。
通勤途中の災害も補償されます。
社会保険調査で何を調べられるか? [ 2013.07.10 ]
社会保険調査とは、年金事務所が会社に対して社会保険料を適切に納めているかを確認する調査です。この調査は、加入漏れや給与変更に伴う保険料変更手続きのし忘れなどの不適切な処理を発見し、正しい保険料を徴収するために行われます。
調査で確認される主なポイントは、①加入漏れと②報酬金額です。
(①加入漏れの確認)
まず、タイムカードから出勤状況がチェックされます。社会保険の加入基準は正社員の4分の3以上ですので、基準を超えて働いているパートがいないかチェックされます。一般に正社員は法定労働時間上限の「週40時間労働」のことが多く、この4分の3である「週30時間以上」働いている形跡がある場合、加入漏れの可能性を指摘されるでしょう。
さらに、源泉税納付書、賃金台帳、算定基礎届などの過去の届け出書類から、社会保険に加入すべき社員がきちんと加入しているかチェックされます。例えば源泉所得税納付書で30人の給与支払実績がありながら、社会保険加入者が10人であるなら、残り20人が社会保険非該当であるかを説明できなければなりません。
(②報酬金額の適性の確認)
また、報酬金額が正しく届出されているかも要チェックです。例えば給与額が30万円でありながら社会保険の標準報酬月額が20万円であるなら、その10万円の差額は指摘を受ける事項となるでしょう。
未加入者が発見された場合、過去2年遡って保険料負担が発生することがあります。保険料は本来、会社と社員が折半するものですが、会社の不手際で未加入であった場合、社員から折半の同意を得られるかはわかりません。
調査で指摘されたことを無視し続けた場合は、最悪財産を差し押さえられることがあります。無視をした以後は立ち入り調査の対象となり、ずっと目を付けられます。調査の結果、多額の保険料納付義務が発生したものの支払を無視し続ければ、差し押さえの可能性もあります。
会計検査院の調査
また、年金事務所が独自に行う調査のほかに、会計検査院の調査もあります。会計検査院の調査は、年金事務所が適切に業務を行っているか調査するため、非常に厳しくなります。社会保険調査の案内通知書を見れば、年金事務所か会計検査院のどちらの調査かが判断できます。会計検査院の場合、「今後加入を検討します」という回答は通りません。その場で書類を書かされる場合もあり、経営が苦しい会社にとっては死活問題となります。
社会保険調査に当たった場合上記の調査項目を中心に事前確認をしてください。
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